~障害ある仲間への想い一つで世界進出~
松永 美湖 様
株式会社きぼうファクトリー 代表取締役
きぼう工房(障がい福祉サービス多機能型事業所)https://kibou-f.jp/
ユヌブリーズ 店主 https://unebrise.jp/ https://unebrise.owst.jp/
― この地域は建物の景観が一気に小江戸の趣に変わりますよね?
はい、この地域は、地中に電線を埋めている他、景観や街創りを非常に大切に
していて、看板は勿論、物置一つも「蔵の会」の方の了承なしにはおけません。
― 何時頃、この地にいらっしゃったのですか?
コロナの第一波が始まった年の1月頃から、100%請負で行っていたパソコン関連の就労支援事業の雲行きが怪しくなりました。その危機感の中、急いで事業転換を行いました。5月にこの地に来た時は、今にぎわっている街に誰一人、歩いていませんでしたが、その時に、決断しました。
私は花が大好きなので、ドライフラワーは下処理の作業が多い為、就労事業として適しているのは分かっていましたが、この事業自体が初めてで、世の中にニーズがあるのかは分かりませんでした。それでも、作りださねばメンバーの仕事がなくなる危機感に突き動かされました。
5月に見学し、5月末に契約をして、皆にドライフラワー事業をやる事をプレゼンした時は、当然、ポカンとされ、「ドライフラワーって何?」から始まりました。6月に花を一気に仕入れて、オープンしたのが8月末でした。メンバーの理解を求めている余裕がないまま始めたのがこの店です。それでも、来客数が増えてきて、ようやく少しずつ理解されてきたのが現実です(笑)
― ここは元々何だったのでしょうか?
蔵でした。蔵の周りにトタンが貼ってあった場所です。お隣の山屋さんが建物のオーナーなんですが、その方が蔵を守るために作った箱なんです。ここは文化財なので施工出来ないんです。
常湿に優れているので、当初はこの中にドライを吊るすつもりでいたんですけど、釘を刺したり穴を開けたりできないので、外側の箱の部分にドライフラワーを干して、内側の建物部分はカフェにすることになりました。全員がドライフラワーづくりをできるわけではないで。
どんな場所にしたかったか、っていうこだわりはありました。多くの障害福祉施設が、今窮地に立たされています。いい仕事をしているのに販路が見つからない、発信の仕方がわからない、どんなふうに仕事を創出して良いかが分らない、というのを常に聞いていました。そこで、全国でときめきくものを作っている福祉施設の素晴らしい商品を取り扱い、人の手をかけている分、とても素敵なものを作っていることを発信したいと思いました。
当店も、一見、障害者施設が運営している様に感じないと思うんです。でもテーブルに小冊子があって実はどんな人が作っているのか、書かれています。パンも自家製の麹工房を作っているので、パン職人さんでさえ、羨むパンを作っています。コーヒーも精神障害を抱える人達が多いB型事業所で、一つ一つ悪質な豆を手で取り除くんですね。そうすると泡立ちが違って、ふっくらするし、非常においしいんです。他にも、カップやグラス等、徹底的に調べて、素敵なものを見つけました。福祉施設なので直接電話して安心してお話し頂けました。そんな風に集まった作品とタイアップしてカフェを運営しています。
■コーヒー豆~ちひろ珈琲 / 埼玉県さいたま市見沼区東大宮5丁目47-1 / 電話:048-675-7750 / https://chihirocoffee2011.conohawing.com
■ケーキ用の器~社会福祉法人カリヨン器レモン / 徳島県阿波市吉野町柿原字シノ原340 / 電話:088-696-5757 / https://www.lemon.or.jp/office/yoshino.html
■グラス~社会福祉法人浦安荘 うらやすガラス幸房 / 岡山県岡山市南区浦安本町209 / 電話:086-263-9201 / https://www.optic.or.jp/SELPokayama/member/detail/no/165/
■パン~社会福祉法人けやきの郷 けやきベーカリー / 埼玉県川越市石原町1丁目187B / 電話:049-277-4544 / https://www.instagram.com/keyakibakery/
― 一過性の「買ってあげようか」はなく、本当に良いモノを、障害者支援という背景なしに評価して頂き、継続していく、そういう仕組みですよね?
はい。障害者就労支援という事を知らない分、厳しい評価も頂けます。紙袋もお求め頂く時代なので、貼ってもらうシールが斜めになってたら全部返して全部やり直ししてもらう。ブーケも何回も泣きながらやり直ししました。仲間のことを考え、随分厳しくし、妥協しない。その思いが通じました。直接のお客様は私たちのミスを受け止めてくれるかもしれないけれど、お客様の先は受け止めて頂けない。もしかしたら大事な方へのギフトかもしれない。がっかりさせることは絶対にできません。
お陰で、今はとってもかわいいものを作れるようになりました。そのために、スタッフたちが根気よく、対応しました。メンバーたちの適材適所を見て、一人では完結できないけど、それぞれの役割を開発しています。
その場限りの、思いやりで買って満足されてしまっても事業の継続は難しいです。直接厳しい意見も聞いておかないと改善出来ないし、自分たちが良くなっていかない。「だって福祉だもの」っていう甘えが出ちゃいがち。皆がギリギリできるレベルと市場価値の接点を目指しています。あまり思い切り高く要求水準を掲げ過ぎても出来ないので、質量等の調整は本当に難しいです。
どこまで行ってもベースは希望工房のメンバー。仲間達がやっぱり主役にならないといけません。
― メンバーはどの障害が多いんですか?
知的障害を持つメンバーが非常に多いですね。ですので、本当にもう、ワキアイアイで、楽しく盛り上がってます。みんなマイペース。
― それにしても、コロナ禍の中、新事業を開拓されたのは素晴らしい!
新しい仕事を作らないと、仕事がなくなるかも知れない、という予測はやっぱり当たってて、仕事がなくなって始めていてよかったね、と実感しました。
この3年間、心が折れる時期は本当に沢山ありましたけど、その期間に、沢山の方々と強い繋がりが出来たからこそ、今こうやって賑わって沢山の方に来て頂けています。もし、ずっと忙しかったら街との繋がりは出来なかった。やはり辛かったからこそ互いに励まし合いながら、街との繋がりが出来て可愛がって頂けるお店になりました。街の清掃活動にも参加させて頂いています。地域外で活動する事も最近多くなりましたが、基本は、この街で生かしてもらった感謝を大事にしています。この街の人とこの街が好きなので「好き」を表現する為に、清掃活動をしています。
メンバー達は皆、自分達の「きぼう工房」が好きで、休みの日に、嬉しそうにこのカフェに来てくれます。親御さんも、我が子がユヌブリーズの作品を作っている事を自慢して下さるのも嬉しい。メンバーや家族が、ちょっと誇りに思っていただける場所になりました。
4月に、台湾にお招き頂いて、台北に次ぐ第二の都市、高雄市の大きなイベントに参加しました。コーヒーと花をテーマにした全部で350店舗の大規模。お誘い頂いた時、花って輸出がすごく難しいとも思ったのですが、急いで翌日に水産省に電話して、他方、台湾側の検疫も問い合わせ、税関手続き等も調べてクリアーしました。
有難い限りで、販売も非常に好調でした。シンガポールやマレーシアは湿度が高いので検証は必要ですが、ドライフラワーをお好きな方が多いので、挑戦したいですね。
まだまだ日本が手をつけてない分野なので、もう先行してまずは実績を作るのが大事。大手のお花の卸しの方も興味持っていろいろ聞いてきます(笑)
カフェで働きたい夢、お花で働きたい夢を叶える、障害があってもそういったいろんな仕事を創出することで、一般の社会ではなかなか難しいけれど、ここだったら安心して自分のことを理解してもらいながら働ける場所、居場所を、仕事を通して作り続けていくことが原動力です。
2023年4月 台湾・高雄「森の市」にて
― ビジネスセンスの良さと行動力は、どういう経験から生まれたのですか?
私は庭とアンティーク、いろんなカフェ巡りが本当に好きで、一杯見てきました。元々は、主人の会社で経理の仕事をしていましたが、企画や運営が好きなので、広報の仕事も経理やりながら傍らでやっていました。
まぁ、もともとヒラメキが多い方でした。本当に、降りてくるんですよ。「これだっ」て感じるんですけど、ここの仕事を始めてから、ヒラメキが多くなって、「生まれる前も同じ仕事してたのかな」と思っちゃうぐらい! ヒラメキとか、アイデアがもう、湧き出て今も止まらないんですね。「ちょっと変人かもしれないね」って言われて生きてきた人間で、悩んだ事もありましたが、今は「変わってるね」っての私は褒め言葉だと思っています。
― 2023年5月4日に私達が主催したイベントでは、「リスペクトフラワー」で出店されました。
日本の市場に出回る厳しい出荷基準の中で、同じ苗に育ち出荷される子とされない子がいて、そのされなかった子達を美しく花として生かしてあげたい、とお花に関する活動されている方からお声かけがありました。その後、花の一大産地、愛知県の生産者様から虫食いや首折れなどのバラをサンプルで沢山送って頂きました。きぼう工房のメンバーが丁寧に下処理して完成した美しいドライフラワー。私はこの花達を「生産者さんと花に敬意を表す」尊い花として、リスペクトフラワーと名付けました。
畑を始め、花を育てる大変さを知ったからこそ生産者さんには敬意を表したい。100%で無いにしても大切に手間をかけ育たられた対価もきちんとお支払いしたい。更に一生懸命咲く可愛い花たちにネガティブな名前はつけたくない、と思いました。救えるお花は自分たちの出来る範囲では一握りだけど、この取り組みに賛同してくださる方々が何か力を貸して頂けるならば個性ある花達をもっともっと生かしていけるのではないかと思います。
まずはじめの一歩から。今年は少しずつ「きぼうファクトリー」のSDGsの活動を進めていきたいと思います。
― 「リスペクトフラワー」に加え、「まひるのせいざ」もご紹介頂きました。日本全国から惚れ込んで集めた作品群ですよね?
真昼に空を見上げても見えない星座たち。だけどちゃんとそこにはいて、輝きを放っている。日々の暮らしの中の大切な1人1人のきらめきを、この言葉にのせています。
■さをり織り~社会福祉法人緑の風福祉会 / 埼玉県三郷市半田1212-2 / 電話:048-959-1615 / https://www.misato-midorinokaze.org/
■スウェーデン刺繍~社会福祉法人 皆生会光の園 / 埼玉県所沢市東狭山ヶ丘6-2833-2 / 電話:04-2922-8141 / https://www.fukusikaiseikai.or.jp/hikari/
― ネーミング一つとっても、丁寧に想いを込めているのですね。本日は沢山の貴重なお話を聴かせて頂き、有難うございました。
きぼうファクトリー
・きぼう工房:埼玉県所沢市神米金490-3(電話04-2990-5502)
・きぼう工房東くるめ東京都東久留米市下里2-16-21(電話042-420-1764)
・ユヌブリーズ:埼玉県川越市幸町3-8(電話049-299-7152)
※ インタビューを終えて
松永さんのお店は立地、外観及び内装までとても素敵なところでした。ご自身はアイデアに満ち溢れ、事業の創造性もすばらしいのですが、危機感からの事業転換の過程をお聞きする中、仲間への強い思いと揺るぎない行動力に感服しました。材料調達に始まり、生産(製作)、流通、販売まで一貫して実施されているので働いている方々も自分が関わった過程や商品がお客様の手に渡り喜んでもらえることが見える、実感できるのはとてもモチベーションが上がると思います。就労支援に情熱的に向き合う松永さんならまだ選択肢が限られている障害者の職務開発を進め、活躍できる職域を広げて頂けるのではないかと思います。私達も障害の有無にかかわらず適材適所で「ユニバーサルなワークシェアリング」があたり前になる世の中を目指します。
(文責:坂間 正章 2023年4月23日訪問)